高校で卒業式が行われた。進学、就職へとそれぞれの道に進んでいく。親元を離れる子も多かろう。よく言われるように卒業は旅立ちの節目だと思うが、この「旅」、昔々とはずいぶん趣を異にしているようだ。▼水さかずきという言葉がある。二度と会えそうにない別れの時などに、酒の代わりに水を飲みかわすことをいう。昔は、旅に出るとき、水さかずきを交わすことがあったらしい。それほど覚悟を決めて旅立ったのだ。▼旅の語源からも、旅の厳しさがわかる。民俗学者の柳田国男は、旅の語源は「給(た)べ」であるとした。これは「ものをください」ということ。昔の旅人は、食べ物に窮すると、誰かに恵んでもらわなければならなかった。旅にはひもじさがつきまとい、辛いものだった。▼「かわいい子には旅をさせよ」の「旅」も同じく、辛い経験をいうのだが、旅が快適なレジャーになった今、このことわざを、「かわいい子には旅をさせて、見聞を広めさせ、いい経験をさせてやろう」と解釈している向きもあるらしい。今昔の感がある。▼東北大学の入試で、仙台駅から大学に向かう臨時バスに、受験生と一緒に乗る父母が多くいたため、乗りきれない受験生が続出し、試験開始を30分遅らせたという。入試は、旅立ちの前のステップ。まさに今昔の感にたえない。(Y)