最近、仕事でお二人の方の自分史を編集させていただいた。一人は、書かれた原稿を整理し、もう一人は、少女時代に焦点を絞って聞き書きをした。それぞれの人生の歴史にふれ、生きることの重みを改めてかみしめた。▼教育者の森信三氏が書いている。「多くの人はわれわれ程度の人間が自分の伝記など書くのはおこがましいと考えているようですが、二度とないこの世の『生』を恵まれた以上、自分が生涯たどった歩みのあらましを、血を伝えた子孫に書き残す義務がある」。▼森氏は「人生二度なし」と、再三再四説いた。人生は一度きり。当然と言えば当然だが、どれほど深く自覚しているか。骨身にしみるほどに自覚すれば、二度とない生に恵まれたことに対して襟を正さざるを得ず、感謝の念を持つことだろう。▼ならばこそ、森氏は、その生を自分がどう生きたかを、血を分けた子孫に伝える義務があるとしたのだろう。子孫のために書き残すのがいい、という勧めではない。書き残すべき、という義務なのだ。自分史を書くことは、一度きりしかない尊い生を授かったことに対する報恩と言える。▼ささやかな歩みであったとしても、本人にとってはかけがえのない歩み。自分史でなくても、その歩みを何らかの形にまとめ、二度ない生を授かった証を残したいものだ。(Y)