終了したNHK朝ドラ「ごちそうさん」は、局も驚くほど高視聴率だったとか。やはり食い気の威力だろう。戦時下や終戦直後の描き方には甘さや荒っぽさも目立ったが、毎回登場する食事の場面は確かにリアルだった。▼使われる料理の演出を担当したフードスタイリストの飯島奈美さんが、「全部作りたてだった」と文藝春秋3月号に書いている。味噌汁でも、余裕のない撮影時間を短縮するために、カメラが回るだいぶ前から椀にそそいでおくようにと指示されたが、「そこだけは譲れない」と、あらかじめ具だけを入れておいて、直前に温かい味噌汁を注いだ。▼椀から立ち上がる湯気が、出演者を本当に食べる気にさせ、画面のこちら側の者にまで匂いや温かさを感じさせたのだろう。実際に食べられる料理ばかりだったということを、視聴者は言われなくても理解していた。それが高視聴率にもつながったと思う。▼話は変わるが、3月16日号本紙「自由の声」欄に、「終戦の年に4歳の弟が『おとと(魚)が食べたい』と言いながら亡くなった」という投書が載っていた。命日によく鯖寿司を供えるという。▼「馳走」は、もてなす人だけでなく、料理をする人が用意のために奔走してくれることにも感謝の気持ちを込めた言葉。何気なく言っているその意味を、かみしめたい。(E)