多紀郷友会発行の会誌「郷友」の編集長を長く務められた山口博美さんから、1冊の冊子をいただいた。「郷友」誌上で発表した、篠山関係のエッセイを集めたものだ。篠山の歴史文化にくわしい山口さんならではの玉稿が並ぶなか、とりわけ興趣を覚えるくだりがあった。▼「丹波篠山山家の猿が花のお江戸で芝居する」。デカンショ節のこの詞について識者から聞いた話として、「作者は篠山の人ではない。篠山及び出身者の一部を揶揄(やゆ)嘲笑したものである」と記している。▼デカンショ節といえば「山家の猿」を連想するほど、よく知られた詞だが、元をたどれば、篠山をあざけり、からかったものだという。もし、この説の通りとすれば、この詞を受け入れ、愛誦している篠山人の懐の深さ、器の大きさに感嘆する。▼ドイツに、「ユーモアとは『にもかかわらず』笑うこと」という言葉がある。辛く苦しいにもかかわらず笑うのがユーモア精神だという。「山家の猿」も同様。あざけられているにもかかわらず笑い飛ばす。大人の対応であり、あっぱれなものだ。▼山口さんのエッセイに、民謡にくわしい他郷の知人が「山家の猿」について「開き直ったというか自信というか、これはただ者ではないぞ、という感じを与える」と語ったとある。確かに、ただ者ではない。(Y)