2014.04.26
丹波春秋

 タケノコが大の好物の当方。毎日のようにタケノコ料理に舌鼓を打っている。旬のおいしさが味わえるのは今の時期だけかと思うと、いっそういとおしく、普段は見向きもしない竹林のありがたさを思う。▼竹にまつわる中国の言葉に、「胸中に成竹(せいちく)あり」というのがある。成算があることの形容だが、この言葉は竹を描くことを得意とした北宋の画家、文同に由来する。文同の竹の絵は天下一品で、求める人が引きも切らなかった。▼とはいえ、その絵には特別な工夫はなく、さらさらと描いたという。ただ文同が他の画家と決定的に違ったのは、竹をこよなく愛したことだ。厳冬であれ、炎暑であれ、暇さえあれば竹林に入って竹を熱心に観察した。竹の姿や変化について知り尽くした。▼だからこそ「胸中に成竹あり」で、竹を描こうとする前に、心の中には竹の形ができあがっていた。不断の積み重ねの大切さを教えてくれる故事だ。不断の積み重ねがあってこそ、「胸中に成竹」の域に達することができる。これは何も絵に限ったことではなく、万事に通用するものだろう。▼このコラム一つにしても、そうだ。知識を深め、感覚を磨くことを怠ると、駄文に堕す。タケノコの時期にしか、竹に思いを馳せないような気まぐれな態度では、胸中に竹が描けない。―自戒。(Y)

 

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