五十肩

2014.05.10
丹波春秋

 最近、右腕に痛みを覚え始めた。腕を真上に上げようとすると、鈍痛がある。何かの拍子に腕をひねると、痛みが走る。50歳代半ばの当方。この痛みは、五十肩なのかと自己診断している。▼作家の宮本輝に、母親の思い出を記した『五十肩』というエッセイがある。宮本が大学3年の時、父親が死去。事業に失敗し、多額の借金を残した。火葬を終えて家に戻ると、母親は財布からなけなしのお金を取り出し、夕刊を買ってくるよう宮本に命じた。新聞の求人欄から仕事を探すためだ。▼そのとき母親は55歳。どうにか見つけた仕事は、ビジネスホテルの従業員食堂のまかない。80人分のカレーを作り、80人分のオムレツを焼いた。生来体の弱かった母だが、髪を振り乱して巨大な鍋を持ち上げた。「春にならん冬はない。へこたれへんで」が口癖だった。▼10年間働き、退職。まもなく右腕が痛くなり、五十肩と診断された。66歳の五十肩だった。▼暮らしを立て直すため、身を粉にした母。生活の重荷を一身に担った強さを思う。吉野弘の詩の一節にある。「母は舟の一族だろうか こころもち傾いているのは どんな荷物を 積み過ぎているせいか」。確かに「母」という字は、わずかだが傾いている。守るべき者のために身を投げ出して荷を背負っているからか。きょうは「母の日」。(Y)

 

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