「まことの威厳」

2014.06.21
丹波春秋

 本紙5面でも大きく取り上げるなど、今ちょっとしたブームになっている黒田官兵衛。希代の軍師として知られるが、家臣に対する物腰は柔らかかったらしい。▼官兵衛は常々、「威厳と高慢は違う。威張り散らすのは、威厳ではない。家臣にも礼譲の心で接すれば、自然と敬われる。それがまことの威厳というものだ」と語っていたという。同じく戦国武将の一人、前田利家にも似たようなエピソードがある。▼利家より23歳も年下で、地位も低かった福島正則から2匹の鯉が、利家の館におくられてきた。利家から礼状を書くように命じられた家臣は、「鯉二尾到来、満足せしむ」と書いた。差し出す前に礼状をチェックした利家は、家臣をしかりつけた。「目下の者に対する手紙ほど、丁寧に書くべき。見下した書き方は高慢であり、高慢なふるまいは愚か者がすることだ」。▼威圧的な言葉遣いや態度は、人を従わせることはできても、人の敬愛は得られない。戦国時代だけでなく、現代にも通じる教えだ。権力を行使できる座にある者は、よくよく心しなければならない。▼心理学者の河合隼雄氏は「権力を棄(す)てることによって内的権威が磨かれる」と説いた。官兵衛も利家も、高慢にふるまうという権力を棄てることで、人がおのずと従う権威を得ようとしたのかもしれない。(Y)

 

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