「てぃー・たいむ」(先月22日号)に土性里花さんが食べ物の好き嫌いについて書いている。父の笑顔を思い出させる「伸びきった麺」が美味しく、みかんには兄の悲しい顔が浮かぶのであまり食べないとか。▼「あなたにある物語は?」と問いかけられ、春秋子のそれを思い起こすと、まず、アンパン。小学校の入学式の日に帰宅後、母が「これは今日だけやで。特別の日なんやからね」と念を押して出してきた。早速ぱくついたが、子供の舌にも酸っぱくて何やらおかしい。母が「どれ、貸してみ」と中を調べると、奥の方はカビだらけだった。以来、アンパンにはとりわけ執着し、一時は毎朝食べていた。▼あまり食べたくないのは、せんべい。終戦後、父が石生の駅前でせんべい屋をしていて、夕方に多くの客が1袋5円の屑せんを買いに来ていた。小1の時、父が工場をたたんで柏原に引っ越した際、せんべいを詰め込んだ1斗かんをいっぱい持ち込み、おやつは半年間ほど、ずっとせんべいばかりだった。▼西川きよし氏が講演で「子供の頃、夏はおかんに『腹が減らんでええ』と毎日スイカばっかし食わされた。だからスイカは見るのもいや」と話した気持ちがよくわかった。春秋子の物語も、土性さんのように豊かな感性によるものではなく、もっぱら食い意地故のものだ。(E)