田園交響ホールで開かれた「オペラの饗宴」の最後に、「皆さんもご一緒に」と、唱歌「夏は来ぬ」の合唱に加わった。子供の頃から馴染みのある、女の子は毬つきで歌っていた歌だが、渡された歌詞カードを見て驚いた。▼「卯の花の匂う垣根に 時鳥(ほととぎす)早も来鳴きて…」の1番はよく知っているが、2番「さみだれのそそぐ山田に早乙女が裳裾ぬらして…」、3番「橘のかおる軒端の窓近く蛍飛び交い…」は全く知らない。▼5番まで続く文語調の歌詞は、いかにもこの季節の情景を次々と浮かび上がらせる。国文学の大家、佐佐木信綱の明治30年頃の作。当時の小学生たちはちゃんと意味を理解していたのだろうな。近年、NHK「みんなの歌」でも放送されたそうだが、今の子らには「早乙女が裳裾」などチンプンカンプンだったに違いない。▼「オペラの饗宴」の実行委員会には「童謡唱歌を広める会」の関係者もいる。オペラの歌曲に劣らない美しい歌が日本にもあることを知らせようと、この曲を歌ってもらったのだろう。▼前記3番の歌詞の続きは「おこたり諌(いさ)むる夏は来ぬ(暑いからって怠けちゃいけない。蛍がそう言っているよ)」とある。帰路、早苗の植え揃った水田を見ながら小学生時代、害虫のめい卵採りに田んぼに入らされたことを思い起こした。(E)