先日、所用があり東京へ行った。めったに行かないこともあり、東京に行くと、とまどうことがある。エスカレーターの立ち位置だ。大阪では、急ぐ人は左を駆け上がるが、東京では右。大阪方式が身にしみついているので、ちょっとしたカルチャーショックを受ける。▼左右が逆転しているのは、なぜなのか。哲学者の鷲田清一氏は、こう分析している(『自由のすきま』)。東京では、歩かなくても自分の身体を運んでくれる装置としてエスカレーターをとらえている。それに対して、せっかちな大阪人はエスカレーターを、より速く駆け上がるための装置と考えている。▼東京と大阪ではエスカレーターに対する見方が異なるが、それぞれの見方に従うと、東京も大阪も、左に位置するのが「普通」になるというわけ。なるほどと思う。▼エスカレーターのほかにも、とまどうことがある。東京に限らないが、都会の人はよく歩くということだ。田舎では、わずかな距離であっても車に頼る。健康づくりのために歩くことはあっても、移動するために歩くことは極力避ける。▼移動する手段として、都会では歩くことは普通だが、田舎では車が普通。生物上のヒトにとって歩くことは、もともと移動手段であったはずで、ヒトたるゆえんだ。都会と田舎、どちらの普通が本当か。(Y)