クモの糸

2014.07.16
丹波春秋

 地獄で苦しむ陀多(カンダタ)を救い上げようと、お釈迦様が投げ降ろしたというクモの糸は、実際に「強靭性×伸縮性」兼備という点で抜群に優れる。アフリカ・マダガスカル島には幅25メートルの川に糸を張るクモもいるそうだ。▼この糸の組成アミノ酸を分析し合成した遺伝子を、微生物に導入・培養することにより人工的に製造し、紡糸、加工まで成功させたベンチャー企業「スパイバー」社を、山形県鶴岡市に訪ねた。▼7年前に同社を立ち上げたのは、慶応大大学院にいた関山和秀氏。仲間らと「世界で最強の動物は?」などと雑談していたのが発端という。昨秋に7億5000万円を投じ年産10トンをめざす量産設備を完成。軽くて丈夫な自動車部品や医療器具を初め様々な分野で期待できる夢の繊維の実用化に向かって世界のトップ・ランナーとなった。▼慶応義塾大先端生命科学研究所に同居する同社のオフィスは、明るくモダン。全国から40人の選りすぐった若手の研究社員が集まり、丹波篠山出身で博士号を持つAさんにも出会った。▼東京から遠く離れた自然豊かな土地で、スタッフは伸び伸びと生活を楽しんでいるようだ。地方の町にこのような最先端の大学研究所が進出し、世界に注目されるベンチャーが生まれ育っているのに驚くと共に、それを仕掛けた市の卓見に脱帽する。(E)

 

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