清少納言「枕草子」

2014.07.12
丹波春秋

 清少納言はハエが大嫌いだった。「こんな嫌なものを、書き物の中になど登場させたくはないのだが」としながらも、「枕草子」にわざわざハエを取り上げ、「ハエこそ憎らしい虫の随一だろう」とこきおろしている。▼弊紙の前号で、篠山市内で「クロバネキノコバエ」という虫が大量発生していると報じ、窓に張り付いた大量のクロバネキノコバエの写真が載った。日々、あんな様子では清少納言ならずとも憎々しい虫の筆頭にあげたくなるだろう。梅雨が明けると、おさまるようだが、梅雨明けには本格的な夏の暑さが待ち構えている。▼同じく「枕草子」に、暑さを忘れた出来事が書かれている。扇をやたらとあおいでも、涼しさを感じられずにいた夏の日、便りが届いた。「深紅に染めた和紙に文字を書き、見事に咲いた石竹(せきちく)の切り花に結びつけてある」。清少納言は、そんな文を寄こした人の心遣いにふれ、手に持っていた扇の存在さえ忘れるほどだったとしている。▼品のある文と、文に託した思いやりに清涼感を覚える。これも清少納言ならずともであろう。▼ときは「文月」。国語学者の大槻文彦氏によると、稲の穂がふくらみ始める月、「ふふみ月」の転だと、文月の由来を説くが、文字通り文の月としてすがすがしい暑中見舞いを出し合うのも暑気払いにいい。(Y)

 

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