夏祭りの季節。祭りに欠かせないのが露店だが、漢字クイズをひとつ―。「ろてん商」はどう書くか。そう「露天商」と書く。露店を商うのだから「露店商」でいいようなものなのに、露天で商う人という意味で「露天商」となる。国語学者の金田一春彦氏ですら「漢字の使い方はめんどうだ」とこぼす一例である。▼面倒が理由ではないが、漢字を使うのはやめよう、という主張が堂々とまかり通った時代がある。戦後間もない頃だ。ある大手新聞は「漢字を廃止すると、封建意識が一掃される」という考えのもと、文化国家の建設も民主主義の確立も、漢字の廃止とローマ字の採用に基づく国民知的水準の高揚によって促進するべきだ、と主張した。▼知識人にも支持者がいた。文豪の志賀直哉は、敗戦の一因を漢字学習の効率の悪さに求め、フランス語を国語にすべきと提案。大物政治家、尾崎行雄も漢字の追放を訴えた。▼今ならば到底考えられない議論が「正しい」ものとして通用した。正しさとは一体何なのかと考えざるを得ない。▼時代が変われば、正しいとされる考えが変わるように、正しさは時代の制約を受けるもの。正しいとされる主張を前にしたとき、時代の流れから身を離し、立ち止まって考え直すことも必要だ。敗戦から約70年経つ今も、それは変わらない。(Y)