浴衣

2014.08.09
丹波春秋

 篠山の夏の風物詩、デカンショ祭に行くため、年に1回は浴衣を着る。こざっぱりとした美しさがある浴衣だが、もともとは入浴用の衣類だった。昔の上流貴族は浴衣を着て、蒸し風呂に入った。時代がくだって、入浴後に着るようになったのだが、いずれにしろ風呂と結びついた衣類だった。▼「西洋の風呂は事務的で、日本の風呂は享楽的だ」と言ったのは哲学者の和辻哲郎だ。日本人にとって風呂は、心身をのびやかにさせ、人生を楽しむためのもの。そんな文化の中で生まれた浴衣は今、風呂よりも夏祭りを彩る衣類となった。▼浴衣を着て踊る。「おどる」は「躍る」とも「跳る」とも書く。生きている喜びが実感できる時には心が躍る。元気よく跳びはねている子どもの姿からは、生きている喜びが伝わる。「おどる」とは生の歓喜の表現に他ならない。▼デカンショ祭で夜空の下、多数の人々が幾重にも輪をつくって踊る総踊りには高揚感がある。日常の拘束から解き放たれた奔放な明るさがある。生の歓喜に加えて、踊る人、見る人も一体となった、生の交歓がある。▼夏祭りの踊りも、風呂と同様に心身がのびやかになり、人生を謳歌するもの。だからこそ踊りには浴衣がよく似合う。年に1回ではなく、着る機会が増えれば、より愉快な人生になるかもしれない。(Y)

 

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