実りの秋は、おいしいものが出回る季節。とりわけ丹波の秋は、舌をうならせる農産物が多い。その味わいをしみじみ楽しむのだが、相馬御風(ぎょふう)は「味わいは物にあるのではない」と言った。御風は、童謡「春よ来い」の作詞で知られる詩人であり、文筆家だ。▼「味わいは、味わう人にある。味わう人の心にある」と御風は言う。家の中でごろごろしながら美食をむさぼるよりも、山に登って食べる握り飯の方がよほど美味であるように、「すべての物の味は、それを味わう人の心にある」というわけだ。▼粗末な食でも心が働きさえすれば至上の味わいとなるように、庭や野に生える名もない草花も、一見すれば変哲のない風景も、心の働きようによっては情趣を覚え、味わい深いものとなる。そんな見方ができるのは、私たちが人だからこそだ。▼ヒトを定義して、「ホモ・サピエンス」という。「賢い人」「知恵のある人」などと訳され、ヒトと動物との違いを、知性の有無に求めるのだが、ホモ・サピエンスのもともとの意味は「味わう人」であるそうだ。味わうという行為は、人の根源であることがわかる。▼田園生活者だった御風は、村の自然や生活にも味わいを見いだした。時まさに、村里が鮮やかな装いとなる秋。せいぜい味わい、人である喜びにひたりたい。(Y)