「楽しみはあき米櫃に米いでき今一月はよしといふ時」。清貧に生きた江戸時代の歌人、橘曙覧(あけみ)の歌だ。つましい暮らしの中にも楽しみがあることを思い知る。▼貧しさをいとわなかったのは曙覧の人となりに負うところが大きいだろうが、時代も関係していたのかもしれない。お金がないことを笑い飛ばすたくましさが江戸時代の人にはあったと、少なからぬ識者が指摘している。▼たとえば「大晦日四百五病でうなってる」という江戸川柳がある。江戸時代、病気は404種類あるとされた。404種類の番外は、大晦日に襲ってくる「金欠病」。年が越せない深刻な事態を川柳にして茶化した。▼貧しさを笑い飛ばせたのは、隣近所のつながりがあったためとも言える。「椀と箸持って来やれと壁をぶち」と、長屋暮らしを詠んだ江戸川柳がある。隣の家と仕切っている板壁を叩き、壁越しに「椀と箸を持っておいで」と声をかける。貧乏所帯の長屋には食べ物を分け与える人間関係があった。このつながりは今も丹波地方には生きている。▼秋本番となり、黒枝豆の季節を迎えた。この時期、知り合いなどから黒枝豆がいただける。ありがたい限りだ。極上の旬の味に舌鼓を打ちつつ、人の好意もかみしめる。曙覧ではないが、つましい田舎暮らしにも喜びはある。(Y)