私事だが、代表を務めている丹波市の劇団「椎の実」の団員と共に、秋田県小坂町にある劇場「康楽館」の舞台に立った。秋田県で開催の国民文化祭に出演したからだ。▼康楽館は明治43年の建築で、日本最古級の芝居小屋。12年前には国の重要文化財に指定された。今も大衆芝居が催される一方、名だたる役者がその舞台に立っている。楽屋の板張りの壁には役者の落書きがあり、平幹二朗、仲代達矢らのサインもある。▼舞台で演じてみて、客席との一体感などに醍醐味を覚え、著名な役者がここでの公演を望むという理由が、素人ながらわかる気がした。劇場として「本物」だからだ。とはいえ、その歴史には盛衰があった。テレビの普及などで1970年以降、使用が途絶えた。▼復興したのは16年後。「活用してこそ文化財」と、町の人たちの情熱でよみがえった。建築様式として本物の価値はあっても、人々の努力がなければ本物の劇場としての真価は発揮し得ない。本物の背後には、人々の献身的な営為がある。▼康楽館のスタッフに「丹波」と聞いて浮かぶものを尋ねると、「黒豆と栗」との返答だった。兵庫丹波の位置がわからないというこのスタッフですら、黒豆と栗は知っていた。まさに本物。それもこれも、丹波の風土に加えて献身的な営為があるからだ。(Y)