坂本竜馬が、西郷隆盛の家で泊まったときのこと。質素で小さな家なので、寝床にいる竜馬の耳に西郷夫婦の会話が聞こえてきた。「家の屋根が腐り、雨漏りして困っています。どうか修繕してください」と妻。それに対して西郷は「今は、日本中が雨漏りしている。我が家の修繕などしておれん」と答えた。▼竜馬はすっかり感心したらしいが、それは竜馬ならずともだ。西郷の言葉に、「節義廉恥(れんち)を失いて、国を維持するの道、決してあらず」というのがある。国を治める者には、道義心や恥を知る心が何より肝要とした。我が家よりも国の雨漏りを案じるのは、そんな高潔さゆえだ。▼現今の日本も至るところで雨漏りしている。ついつい西郷のような人物が今にいればと愚痴りたくなるが、これは、勝海舟が生きていた時代もそうだったらしい。西郷亡き後、世間では「西郷がいたら」という声が出た。▼西郷とは肝胆相照らす仲だった勝だが、そんな世間の声を「西郷が今生きていたとしても、もはや老いぼれ爺だ」と一蹴した。「人材は今でもどこにでもいる。人材がいないのではなく、人を見る目がないのだ」というのが勝の主張だった。▼きょう14日は衆院選の投開票日。西郷に匹敵する人物はいるのだろうか。そう思えないとすれば、人を見る目がないのか。(Y)