“奈落の底”のような真っ暗闇の通路を手探りで歩き、目の先1すら全く見えない空間に追い込まれた。植野記念美術館友の会役員会の研修で訪れた瀬戸内・直島の「南寺」。安藤忠雄設計の建物内に、ジェームズ・タレルが仕掛けた作品だ。▼「そばにベンチがあります。腰かけて5分ばかり前方をじっと見つめていてください。何かがぼーっと浮かび上がるはずです」との指示に従ううち、確かにスクリーン状の方形がぼんやり見えて来た。やがて他の人影や部屋の輪郭も眼に入る。▼「方形の面は微光が射す空洞なのですが、光度は全く変えていません。見えるようになったのは、皆さんの眼が慣れてきたから」との説明に、皆一様に驚く。建物を出る時、「人間、どんな絶望に陥っても、脱するすべは備えていると、作者は言いたいんでしょう」と、ガイドさん。▼ほかにも元歯科の廃屋を再生した「はいしゃ」、ガラスの階段から光が射しこんでくる石室の上に建つ神社等々、数々の「家プロジェクト」、さらに、建物のほとんどが地中に埋まる「地中美術館」など、島じゅうがアートで溢れている。▼かつては産廃の不法投棄で荒れ果てた豊島(てしま)初め付近の島々も、ここにしかない美術館の力で再生された。共同で3年ごとに開く芸術祭に100万人が訪れるとは、これまた驚き。(E)