大震災の教訓

2015.06.24
丹波春秋

 東北大震災の日の朝、大船渡市三陸町に住む老人が友人らと家の近くの海岸を散歩中、ふと「この辺りに昔、『津波石』と彫った大石があったよなぁ」と話しかけた。「そうそう、上でよく遊んだもんだ」。▼その石は昭和初めの大津波の際、200先の川の河口から打ち上げられたもので、「重量8千貫」(30)と書かれていたそうだが、50年ほど前に道路工事で埋められてしまった。「知っている者はもう俺たちくらいだが、そのうち大津波が来て道路も流されたら、また見る時もあんべぃ」と冗談を言いながら帰った。▼ところがその4時間後に現実に津波が襲来し、2週間後には瓦礫の中からその石が現れた。―現地在住の丹波市出身、野村節三さん(北里大名誉教授)=2面「丹波人NOW」参照=から聞いた話。因縁とも思える体験をしたその老人達は「この貴重な石を次世代に引き継ぐことこそ自分らの役目」と誓い合ったという。▼野村さんはまた震災後、高台の復興住宅建設予定地から縄文遺跡が発見された話も披露した。日常の活動の場は海辺だった縄文人が住居は高台に作っていた事実を物語る。▼文字さえ持たなかった時代の人達が連綿と言い伝えてきたことを、自然を次々に作り替える現代人は簡単に忘れ去ってしまう。「これこそが大震災の教訓でしょう」。 (E)

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