2015.10.31
丹波春秋

 手元の本によると、「爽やか」という言葉は秋の季語らしい。空気が澄み、スポーツや行楽にも適した秋はまさに爽やかな季節。そんなすがすがしい気分が秋にはある。その一方で、秋の物寂しい気持ちをいう「秋思」という言葉も、秋にはある。爽やかという清新な明るさと、秋思という悲しみを帯びた陰り。そんなふうに対立する要素を、秋は内に含んでいる。▼これも手元の本によると、「身にしむ」も秋の季語らしい。「野ざらしを心に風のしむ身哉」。旅の途中で行き倒れ、白骨を野末にさらすかもしれないと覚悟して旅に出た松尾芭蕉。折からの秋風がひとしお身にしみたという。身にしむ秋は、ときに深い感傷を呼び起こす。▼秋も深まると、紅葉の季節になる。山野が鮮やかで豊かな色彩を装う。自然の織り成す錦繍の美には素直に感嘆するのだが、秋という季節は対立的な要素を含んでいるように、その美にはどことなく一抹の物悲しさがつきまとう。▼紅葉の季節の向こうには冬が控えている。春に萌え出でた万物が、夏に活力を増し、秋に熟成する。紅葉の美はまさしく熟成の表われだが、熟成の後には「枯れ」が待ち受けている。冬は、万物に沈黙を強いる季節でもある。▼紅葉に物悲しさを感じるのは、「枯れ」への予感が身にしみるからであろう。(Y)

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