戦没画学生が遺した絵を収蔵する美術館「無言館」(長野県上田市)へ。6月に同館展が開かれた丹波市立植野記念美術館での窪島誠一郎館長の講演に感動し、仲間を誘った。▼太平洋戦争末期、繰り上げ卒業で学徒動員された画学生らの作品には、大きな才能の片鱗をうかがわせるものが少なくない。召集令状を目前に、渾身の絵筆で描いた家族や恋人、ふる里の風景。▼絵を学ぶだけでも軟弱と蔑まれかねなかった当時、「しかしこの子には描かせてやりたい」と支えてくれる肉親がいた。「意地を見せねば」と、部隊の先頭に立って突撃していった者もいる。しかし、「もし生還出来たらまた存分に」という彼らの願いは大半が裏切られた。▼窪島氏は、病気で内地に送還され生き残ったことに忸怩たる思いを持つ野見山暁治画伯の話に触発されて彼らの絵を集め始めた。館内には、決して「反戦」とかいった声が響いているわけではない。ただ彼らの想いが重なり合って静かにじんと伝わってくるだけだ。▼終戦時4歳だった窪島氏は「高度成長に乗って金儲けに夢中だった自分が映しだされているように感じた。それが本当の動機だったのでは」と話した。「個人では立ち向かえないような巨大なものに対し、それでも人間は表現する力を持っている。それが素晴らしい」とも。(E)