NHKスペシャル「原発メルトダウン」(3月13日放送)は、福島第1原発の事故発生後88時間の様子を、吉田昌郎所長(当時)の政府事故調査委員会での調書をもとにドラマ仕立てで再現した。日本破滅のぎりぎりのところまで危機が迫っていたことに改めて戦慄させられた。▼最も印象に残ったのは、部下達の対応。全交流電源がストップして冷却装置を操作出来なくなり、ベント(格納容器内の放射能を含む気体を排出し圧力を下げる)作業のため汚染された建屋内に突入しなければならない。他にもこんな事態に何度も直面するたびに、何人もが次々に挙手をした。▼官邸や本社からの「海水注入中止」の指令にも抗して現場の判断で注入し続けた吉田氏の気骨、また日ごろからの部下思いの人柄が、危急の時にこそ彼らの心を捉えていた。▼一方では蒸気爆発、放射能の急上昇など、底知れぬ恐怖と混乱が続く中、先が一向に見えて来ないことへのいら立ちや疲れからか、「ヨシダー!」と呼び捨てる怒声の実録音が迫真に迫る。吉田氏自身、格納容器破壊を覚悟し、「あとは神に祈るしかない」と思った。▼人類未体験の修羅場をともかくも乗り切った彼はその後も8カ月間、指揮をとり続け、癌に倒れた。彼が所長のポストにいたのは、まさに不幸中の僥倖だった。(E)