写真家の大石芳野さんから2月にNHKラジオ深夜便で放送した「生きることの意味を求めて」のCDを頂いた。2回に渡り、ベトナムやアウシュビッツ、コソボ、また沖縄や広島、福島で出会った人達の話。▼どれも胸を打つが、中でも彼女が「広島のお母さん」と呼ぶ清水ツルコさんは、被ばくで全身大やけどしながら生き抜いた人。夫は戦死、子供らを抱え、両手のうち5本しか使えない指で和裁をして糊口を凌いできた。▼筆者もその顔は写真集「HIROSHIMA半世紀の肖像」でよく覚えていた。撮影当時80歳過ぎ。原爆の傷跡の残る顔に大きな眼。放送で聞き手が「決して美形ではないですが、でも本当に美しい瞬間が撮れていますね」と評した。▼大石さんは広島に来たもののなかなか写真が撮れずに悩んでいた時、清水さんに出会って「辛い辛い思い出なのにすべてをさらけ出す懐の深さに包み込まれ、私の方が励まされた」。ツルコさんに限らず、戦争や被災地のどこにも、「私の体験を皆に伝えてほしい」と言う人がいた。▼「人間は愚かしいものだが、でもすごい。そこに希望のようなものが見出される」。彼女の写真集の随所に、苦労を重ねて年輪を刻んできた人こそが持つ静かな笑みがある。願わくは、オバマ米大統領にも1歩、広島へ足を運んでほしい。(E)