パスカルの言葉

2016.05.14
丹波春秋

 84年前のきょう5月15日、海軍青年将校の一団が犬養毅首相を射殺する五・一五事件が起きた。当時、ラジオはこの事件を臨時ニュースとして伝えたらしい。その報道に接した衝撃を、文筆家の相馬御風がエッセーにつづっている。▼「夢にも近い大不祥事件」「新日本における空前の大不祥事」などと五・一五事件を評した御風だが、御風に衝撃を与えたのは、事件そのものだけではなかった。臨時ニュースが終わるや、ラジオから女流講談が流れてきたのに唖然とした。▼「あの大事件のニュースが現実なのか、後で聞こえて来た女流講談、浪花節が現実なのか、何が何だか混沌たる心境」に陥ったと、御風は書いた。翌日の新聞も御風を驚かせた。もちろん五・一五事件を報じていたが、ちょうどその頃に来日した映画俳優、チャップリンを迎えたファンの熱狂ぶりも大きく報じていた。「満州事変や上海事変にも負けない程度」の扱いだったという。▼国を揺るがせた五・一五事件なのに、女流講談にチャップリン騒動。五・一五事件の5年後、日中戦争が勃発。やがて太平洋戦争に突入した。▼パスカルの言葉を思う。「われわれは絶望が見えないようにするために、何か目をさえぎるものを前方に置いた後、安心して絶望の方へ走っているのである」。今に通じる至言だ。(Y)

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