幸福

2016.07.09
丹波春秋

 河合隼雄氏にこんな言葉がある。「太陽が照っている時を『良い天気』と言って、良い天気が多いほど良い、と思いこんでいるのだけど日照りばかり続いたら『良い』とは言えないでしょ」。確かにその通りで、良い天気ばかりが続くと、大変だ。人生も同様で、日照りも暴風雨もあってこその人生なのだろう。▼大病は、人生における荒天の一つ。そんな荒天に若い頃から襲われた歌人で作家の上田三四二氏が、河合氏とテレビで対談した。20代で結核、40代で結腸癌を病んだ上田氏は、大病によって人生観が変わったことを語った。▼「死をいつも前面に立てて生きることの緊張が私の人生を励まし、無常を無常として受け入れながら、無常をわがうちにおいて克服すること」。それが、許された生の時間に与えられた課題になったとした。▼上田氏は65歳で没した。その前年に発表したエッセイでは、死が目前に迫ったことで、はじめて宿願の閑雅に至りついたと書いた。命と引き換えの閑雅であると思うと悲しいが、「この閑雅は無上のものだ」とした。このとき上田氏は至福に包まれていたと思いたい。▼上田氏の後輩である柏原高校の2年生がこの夏、国民総幸福を政策に掲げるブータンを訪ね、幸福について調査するという。どんな結論が出るのか楽しみにしたい。(Y)

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