最悪の病

2016.07.30
丹波春秋

 日本とトルコの間には麗しい友好の歴史がある。1890年、トルコの軍艦が紀伊大島付近で座礁した。遭難を知った島民は、大荒れの海に飛び込むなど懸命に救出活動を展開した。貧しい村だったが、備蓄の食糧を提供し、手厚い看護もほどこし、69人のトルコ人乗員を救った。▼1985年、イラン・イラク戦争で、イランにいる在留邦人の命がおびやかされたとき、救援の手を差し伸べた国があった。トルコだ。▼トルコからの救援機がイランに到着したものの、空港には、救助を求めているトルコ人もいた。まずは自国民のトルコ人から救援機に乗り込むのが普通だろうが、トルコ人たちは「先人が受けた恩を返す時だ」と叫び、自分たちよりも先に日本人を救援機に送り出した。先人が受けた恩とは、ほぼ1世紀前の難破をいう。救援機に乗れなかったトルコ人はトラックや乗用車に分乗し、国境を超えたという。▼そのトルコがテロに襲われたのをはじめ、各国がテロにさらされている。日本とトルコの美挙には、勇気、感謝、友情など高貴なる精神があったが、非道なテロから生まれるものは恐怖、不安、憎悪、憤怒など負の感情だ。▼現今の世界情勢を思うとき、マザーテレサの言葉が浮かぶ。「愛の欠如こそ、今日の世界における最悪の病です」。 (Y)

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