車いすで生活を送っている篠山市の中野和子さんが作った詩に、篠山ゆかりのシンガーソングライター、石田裕之さんが曲をつけ、篠山で開かれた「とっておきの音楽祭」で披露した。詩に込めた思いを中野さんは、「言葉は、人を傷つけたり、喜ばせたりするものだということを伝えられたら」と話していた。▼言葉はときに人を傷つけ、ときに人を喜ばせる。谷崎潤一郎はそれを「言葉は人間を使う」と表現した。「言葉は一つ一つがそれ自身生き物であり、人間が言葉を使うと同時に、言葉も人間を使うことがあるのであります」。中野さんの言うように、人は言葉によって左右される生き物だ。▼そのことをよく心得ていた一人が、マラソンランナーの高橋尚子さんらを育てた小出義雄氏だ。長距離選手を育てるのに小出氏が採った手法は、ほめ言葉だった。▼100などの短距離は、選手の生来の素質がものを言う。対して長距離は、弱い自分に打ち勝つなどメンタル的な要素が大きくかかわっている。そんな長距離選手を駆り立てるものは「夢であり、ほめる言葉」なのだという。小出氏は、言葉によって選手の力を引き出し、伸ばした。▼人は言葉を使うことで考え、感じるからこそ、言葉によって傷つけられたり、勇気づけられもする。言葉には魔力がある。(Y)