作家の池波正太郎は大の電話嫌いだったらしい。食事中は、絶対電話に出ない。トイレに入っている時は、電話に出ないどころか怒り狂った。なのに、3回続けてトイレの使用中に電話をかけてきた編集者がいた。その編集者は出入り禁止になったという。▼こちらの事情を推し量ることなく無遠慮にかかってくる電話。その傲慢さが癇に障ったのだろうが、現代は、電話どころではないほどにコミュニケーションの媒体が進化している。▼ディスコミュニケーションという言葉がある。コミュニケーションの断絶という意味だ。逆説的だが、媒体が進化すればするほどに断絶が深まると言われる。たとえば、電車内での携帯電話での会話。楽し気に長々と話をしている人の目には、周りの人が見えていない。他者は存在していないのだから、他者に対する気遣いなどあるわけがない。▼本紙前号に載った篠山東中学校の中川拓紀君の人権作文に、「多くの人が一緒に生活するためには、お互いの心を『くみとる』ということと、『思いやり』の精神を持つのが大切」とあった。▼ディスコミュニケーションが進行している今、人と人を断ち切らず、人をつなげる「くみとる」「思いやる」という行為はますます大切になっている。中学生の初々しい主張に謙虚に耳を傾けたい。(Y)