象徴

2016.12.01
丹波春秋

 吉田首相の片腕として新憲法制定にも関わった白洲次郎が週刊新潮に載せた回想を、「風の男 白洲次郎」(青柳恵介著)から概略孫引きする。▼―GHQからマッカーサー草案を渡され、全文を一夜で翻訳するよう要求された。天皇の地位が「シンボル・オブ・ステーツ」となっていて外務省の親しい翻訳官がとまどっているので、「井上の英和辞典をひいてみたら」と話すと、辞書を見て「やっぱり白洲さん、シンボルは象徴や」。新憲法の「象徴」という言葉は、こうして一冊の辞書によって決まった―▼これには奥があり、半藤一利「日本国憲法の二〇〇日」によるとその少し前、森戸辰男ら民間の研究会で「天皇は国民の委任により専ら国家的儀礼を司る」という草案が出され、GHQが強い関心を持ったという。▼春秋子は小中学で「象徴天皇」を新憲法の要として叩き込まれたが、その実、「象徴とは」については先生方自身、明瞭に説明しなかった。今上天皇はその「象徴」としての地位を全うすべく、「全身全霊」で務めてこられた。退位のご希望を表明された放送には、新憲法への陛下ご自身の想いが込められているのではと、想像する。▼とまれ、天皇の地位について、国民は「雲の上のことはさわれない」とばかり、矛盾から目をそらしてきたのかも知れぬ。(E)

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