消費者、地域を大切に
40年近い歴史のある篠山市の「丹南有機農業実践会」の会長、有機農業などに取り組む同市内の農家でつくる「篠山自然派の会」の代表、一般社団法人オーガニック認証センターの検査員を務める。元県有機農業研究会理事長。有機農業を始めて43年目のシーズンを迎える。
高校卒業後、東京でサラリーマンをしていた。父親が畜産を始めるのを機に、手伝いながら事務の仕事でもしようと篠山に戻ったが、適当な求人がなかった。「もうええわ」と、農家になった。
畜産農家の仲間と有機農業に取り組むかどうか思案していた矢先、伊丹や尼崎の消費者団体と出会った。消費者が農家の家計を支え、農家が消費者の安全な食を支える―という関係性が新鮮に映った。それからの長い付き合いの中で築いた信頼関係。「小前さんの野菜なら農薬入ってても食べるで」という冗談がうれしかった。
堆肥の臭いや害虫発生の危険性などから、有機農業は地域から敬遠されることもある。だからこそ大切にしたのは、地域との協調。「慣行農法にも権利がある」。ヘリコプターによる農薬散布の際に、集落の人が「有機農業しとるもんがおるから気を付けてやって」と言ってくれるようになった。
近年、関心が高まり、自治体も補助金や奨励金を出すようになったが、「それでもやめていく人はいる。それだけ作業にも、売り先の確保にもしんどさがある」と言う。だから、これからを担う若手には「40年の経験、知識の中から何かヒントを残してやりたい」と話す。「40年にわたって一滴も農薬が入っていない農地が大きな財産であり、宝物」と笑った。69歳。