東京の下町出身の作家、浅田次郎氏が昭和30年代、通っていた小学校で「ネサヨ運動」というのがあったと自身の体験を書いている。「それでサ、それでネ、それでヨ」と、言葉の最後につく「ネ・サ・ヨ」。うっかり使おうものなら、マジックでほっぺたに×印をつけられたらしい。「方言は下品」として東京弁を放逐しようとした。
そんな苦い思い出を持つ浅田氏が、登場人物のすべてが東京弁でしゃべる小説に挑んだ。すると、人物のみんなが江戸前のダンディな人間になり、居ずまいも考え方も格好良くなった。方言と、その土地の気性は分かちがたい関係にあることを再認識したという。
先ごろ、無料通話アプリ「LINE」のユニークなスタンプができた。ネズミたちが篠山弁を話すというものだ。使われている篠山弁は、「かなんにぃ」「べっちょないで」「さんこにしなや」「なしたもんで」などなど。土に根づいた質朴さが浮かび上がる。
篠山は丹波杜氏の里。かつては柳行李に荷物をつめ、わらじがけで出稼ぎに出た。百日稼ぎとも言われ、故郷に残した妻子を思いながら酒造りに励んだ。
東京弁のようにダンディとは言えず、鈍重な感を与える篠山弁だが、粘り強く、勤勉で実直な丹波杜氏を生み出した風土と篠山弁は少なからず結びついている気がする。(Y)