戦争に敗れた日本の町の光景を撮った写真が終戦後、アメリカの有力紙に載った。上野駅前で靴磨きをしている年配の女性が、お客がないものだから新聞を広げて読んでいる写真にはこんな説明がついていた。
この女性は非常に教養のある人だが、戦争のため靴磨きにならざるを得なかった。もともと教養があるので新聞が読めるのだ、と。靴磨きのおばさんが新聞を読む。日本人にとっては当たり前のことだが、アメリカ人にすれば奇異に映ったのだろう。
日本人の識字率は古くから世界に冠たるものがあった。識字率が高かった理由の一つは、日本語そのものの特徴にある。国語学者の金田一秀穂氏によると、「漢字を知らなくてもひらがなさえ書ければ、すぐに文章が作れる」のが日本語だという。
たとえば、「私」や「学校」という漢字を知らなくても、「わたしはがっこうへいきました」と、ひらがなで書ける。schoolというスペルを知らなくても文が書ける。一音が一字に対応しているという日本語の特徴が識字率を高め、高い識字率は日本の文明を発展させた。
江戸時代に高度な文化が花開き、敗戦後、めざましい経済成長を成し遂げたのも、元をたどれば日本語のすぐれた特徴があった。ただいま読書週間。本を開き、日本語に親しみたい。(Y)