39年前、柏原町で「NHKのど自慢」が催されたとき、大学生だった。
1部屋が4畳ほどの学生下宿で、下宿の先輩と一緒に白黒テレビで見たことを覚えている。高校時代の同級生が出演したのには驚いたが、それも我がふるさとについて先輩に語る良き話題となり、しばし望郷の念にひたった。
「うたう」は、もともと「手を打ちあう」ことだったという説がある。祭りの日、人々は集まって酒を飲み、手を打ち合いながら歌い、喜びを分かち合った。歌うことも、手を打ち合うことも集団的な心の交流であり、歌うことは本来、共同体的な人間関係に根ざしていた。
全国各地を回るNHKのど自慢は“ふるさと色”が濃く、共同体特有のぬくもりが感じられる。歌うことの根源がひそむ番組だから、長く視聴者に支持されているのだろう。
都市部に住む丹波地方の出身者が多く集まる宴に参加すると、最後に唱歌「故郷」を歌うことが少なくない。「兎追いしかの山」で始まる歌を、ふるさとを同じくする出席者全員で歌う。百年以上前にできた「故郷」が今も歌われるのは、薄れた共同体的な人間関係への渇望でもあろう。
篠山市で6月、NHKのど自慢が催される。ふるさと篠山を離れて住む人たちは番組の放送時、きっと望郷の念にひたることだろう。(Y)