先日、今田町に行った。いつもながら感嘆するのだが、この時期の今田町は本当に美しい。
新緑でおおわれた山々が目につくのだ。新鮮ですがすがしさが感じられる春の山を表現し、「山笑う」という。冬の厳しさから解き放たれ、明るさを取り戻した山はまさに「笑う」であり、この表現は、山に対する古人の愛着が生み出したものと思う。
日本人は古く山を特別視していた。西方のはるかかなたにあるとされる浄土だが、日本人は山の中にも浄土があるとして、自分たちの先祖が宿っているところと考えた。丹波でも昔は死人を山に送る「山入り」という葬法があったという。
山は神の住むところでもあった。私の住む集落ではかつて1月9日は「山の神」の日とされ、前日の8日にはそれぞれの家の家人が山に入り、水引でくくった1個のもちを木の枝にぶら下げて、山仕事の安全を祈ったという。
山の神は、田を守護してくれる神でもある。米づくりに取りかかる頃、家や里に下りてきて田の神となり、稲作の順調の推移を見守って豊作に導く。この信仰は全国的に認められるそうで、日本人の宗教心の核には山があると言っていい。
山笑う季節は、田植えの季節でもある。新緑で美しく彩られた山から、もうすでに神が里に下りてきているに違いない。(Y)