令和

2019.04.04
丹波春秋

 「初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き…」。新元号の典拠となった万葉集の一節は、今日より少し前の頃を描いたものだろう。「風和ぐ」とあるが、実際には〝三寒四温〟が続く。しかし春本番が待たれるからこそ、春寒の風も心地よい。3月生まれの筆者はこの時季が一番好きである。

 その当時は春の花と言えば、梅だったらしい。平安前期の歌人、紀友則は「君ならで誰にか見せむ梅の花…」と詠んだが、同じ作者のもう1首、〝ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく〟散っていく花は桜である。さらに、「吉野山こずゑの花を見し日より…」の西行らが、桜優位を決定づけたのかも知れない。

 ともあれ、花を愛でるのは世界の人たちに共通だろうが、桜への日本人の想いは独特と思われる。やはり、万葉の梅の時代にまで遡ってこれら古人のDNAが生き続けてきたのか。

 先日、東京の上野公園を通りかかったら、関西より一足早く満開となっていて、それ以上に人の多さに圧倒された。時折、和いではいない風が肌を刺す中、辺り一面シートが敷かれ、弁当や飲み物の瓶が並んでいる。

 スカーフをかぶったイスラムやインド系など外国の人も随分混じり、珍しそうに興じていた。「令和」は通じないかも知れぬ彼らに、古歌の話などはしてみたい。(E)

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