元事務次官の息子刺殺事件は、容疑者が筆者とほぼ同年とあって一層ショ
ックだった。家庭で暴力をふるっていたという被害者が、川崎で小学生達を無差別に殺傷した男と確かに重なって見える。
幼少期に両親と離別し、引き取られた伯父伯母の家で肩身の狭い思いをしていたらしい「男」と、超エリートの何不自由ないはずの家庭で育ち、名門中・高校に進んだ「息子」とは環境はかなり異なっているが、2人に共通なのは、自分の“居場所”が得られないことへの苛立ちだったのではないか。
男は麻雀がめっぽう強く、中学を出て一時勤務した雀荘の店主から信頼を得ていたというが、伯父伯母の家ではそれも評価の対象とはならなかったようだ。
一方、息子の方は両親が望んだであろう東大進学は叶わない代わりに、ゲームやアニメでは相当の才能を発揮していたが、これも両親に対してはマイナス材料でしかなかった。
多くのひきこもりの家族に暗い影を落とした両事件。悲劇を繰り返さないためには、関係者がその人の居場所が作れるように配慮することが必要ではなかろうか。誰でも何かの抜きんでたものを持っているはず。それがたとえ保護者らの価値観、常識からはみ出るものであれ、世間体などにとらわれずに見守ってやることが出来れば。(E)