台湾・高雄地方で兵庫県丹波篠山市特産の黒大豆「丹波黒」を改良した品種が栽培され、流通していることがわかった。台湾では通称「黒蜜丹波」として流通。丹波黒の品種が保護されていないという背景があり、法的な問題はないものの、存在を知った関係者は「丹波という名を使っていることにいい気分はしない」「品種を守る活動が必要では」と訴える。台湾での販路拡大に取り組んでいるJA丹波ささやまはこの状況を懸念し、現地で「丹波篠山黒豆」の産地団体商標を出願しているほか、台湾の行政や関係者と連携し、「”本家”は日本の丹波篠山」ということをPRする事業に乗り出している。
台湾で流通している品種は「高雄7号」。行政院農業委員会高雄区農業改良場の資料によると、父は「高雄1号」、母は「丹波黒」で、「2002年育成の高雄7号は豆の甘みが強く、種皮が黒いため、黒豆煮に加工して輸出することができる」とある。
丹波黒は品種ではなく系統の総称。丹波篠山市では波部黒、川北、兵系黒3号の3品種が栽培されているほか、市外、県外も含めるとさまざまな丹波黒大豆の品種がある。高雄7号にどの品種が交配されているかは不明。
また資料には、「枝豆はこの地域の重要な輸出作物」ともある。2018年の財務省貿易統計によると、台湾から日本への冷凍枝豆の輸入量は3万904トンで、国別1位。高雄7号も日本への輸出向けに作られたものとみられる。
さらに高雄7号は2009年に農水省で品種登録されている。農水省は取材に対し、「系統に日本の品種が入っていても、要件を満たせば品種登録はできる」とする。また、試験場などが他産地から種苗を取り寄せてよりよい品種を作ることは通常のことという。
品種保護に課題 商標登録もなく
しかし、通称でも「丹波」を冠した品種が流通している状況に丹波篠山市内の関係者からは疑問の声が上がる。しかし、対策はないのが現実だ。
特定の品種を保護するため、国内法では「種苗法」があるが、丹波篠山の3品種は品種登録されておらず、規制はかかっていない。また、「丹波黒」という名は商標登録もされていない。系統がさまざまあることや、京都、兵庫など各地で栽培されていることなどが原因だ。当然、海外においても、品種も商標登録もされていない。
同省によると、そもそも流通形態が「種子」なので、だれでも栽培できてしまうという。
JA、現地で商標出願
高雄7号の存在に気が付いたのはJA丹波ささやま営農経済部の西村和彦副部長。2017年、同JAなどが台湾・台北市で開かれている国際食品見本市に丹波黒を出品した際、見た目が酷似した豆を見つけた。
「粒の大きさは丹波篠山のものと比べて小さかったが、見た目は非常によく似ていた」と話す。また、「黒蜜丹波」という通称を使用している点をバイヤーに尋ねたところ、「台湾でも『丹波』という名前が良質な農産物に付随するブランドとして通用するため使用している」と聞かされたという。
帰国後、法的に問題がなくても、丹波の名を冠していることや、台湾での将来需要を見越した本家の売り込みの障壁になることから、「放っておけない」と考えた。
そこで同JAが日本の地域団体商標として「丹波篠山黒豆」を取得していることに着目。昨年度から特許庁の「海外展開支援事業」に採択され、日本貿易振興機構・神戸貿易情報センター(ジェトロ神戸)の支援を受けて、台湾での商標取得に乗り出した。商標が取得できれば、「少なくとも『丹波篠山黒豆』という名は守れる」と考えたからだ。
台湾内部から「本家」発信を
また、台湾内部から本家の良さを発信してもらう協力者を探し、台湾原産の「満州黒豆」の産地である屏東(ピントン)県と接触。満州黒豆の市場も高雄7号に押され気味であることから連携することになった。
また、台湾の観光業界に多大な影響力と発信力を持つ人々とも連携し、PRに協力してもらっているという。
今月上旬には行政や農業、メディア関係者らを丹波篠山市に招聘。本場の生育環境や歴史・文化など、黒豆の味だけでなく、その背景にある「情緒的価値」も体感して現地で広報してもらうため、まちの概要を紹介したり、豆畑の見学や市内各所を案内した。
西村副部長は、「高雄7号の流通に、日本における丹波黒の主要産地としては疑問があるが、どうしようもない」と言いつつも、「ただ、台湾で『丹波』が通用することはわかった。次は、『丹波』の次に、『篠山』が続くようにPRしなければならない。屏東県との連携などをいいタイミングととらえ、黒豆を通した連携からまち同士の交流や観光客の誘致などにつなげていければ」と意気込んでいる。