「2人の静斎と向き合う」
丹波篠山市西町にあり、国登録有形文化財に登録されることになった明治38年建築の元製陶工房「陶々菴」を含む今村家住宅で生まれ育った。「篠山焼」を生み出した初代・今村静斎を祖父、2代目を曽祖父に持つが、ともに生まれる前に他界。「今回の登録も含め、2人と自分が向き合う機会になったと思っています」と話す。
高校まで地元で育ち、大学卒業後は大手企業に就職して、各地を転々。1992年に帰郷した。
当然、静斎が作品を焼いている姿は見たことがない。ただ2人が遺した作品に囲まれ、母や祖母はことあるごとに皇室に買い上げられたこともある篠山焼のすばらしさを語った。「静斎や篠山焼に並々ならぬ思いがあったと思うけれど、若いころはそれが嫌だった。臨場感がなかったからです」
33歳の若さで亡くなった祖父の年を超え、実家に戻ったとき、ふと何度戻っても時間が止まっているように感じ、自分の“原点”だと再確認した。
隣に新居を建て、陶々菴は作品展などを行うギャラリーとして貸し出し、2人の作品も展示。改めて出会ったことのない静斎の足跡が、そして、今村家の歩みがしみ込んでいる建物をこれからもとどめておきたいと考えるようになり、登録文化財に申請した。
登録を受け、「もう一度、焼き物を整理し直し、作品を通した当時の暮らし、作者の暮らしに思いをはせたい」と言い、「ただ残すだけでなく、多くのみなさんに見てもらい、愛してもらいたい。それが登録文化財の意義だと思います」とほほ笑む。71歳。