「二宮尊徳」研究第一人者の墓じまい 村救った佐々井信太郎翁 ゆかりの小田原からも参列

2020.11.27
ニュース丹波市地域地域歴史

佐々井信太郎ら、佐々井家の墓じまいに参列した関係者たち。鷲山社長(左端)、草山代表理事(同4人目)、岸田さん(右から2人目)らが仏事を見守った=2020年11月18日午後零時4分、兵庫県丹波市氷上町中野で

兵庫県丹波市氷上町中野出身で二宮尊徳研究・実践の第一人者だった佐々井信太郎翁(1874―1971)の墓域の墓じまい式がこのほど、同地区の墓地で営まれた。尊徳の出身地で、信太郎が研究に打ち込んだ神奈川県小田原市からの参列者は、「報徳を学問にした」と功績をたたえ、「長く見守っていただいて感謝する」と、長年にわたり墓を守ってきた地元の人たちに感謝した。

信太郎の墓は小田原の霊園にある。亡くなった1971年に故郷に分骨され、岸田隆博さん(丹波市教育長)が、父親の代から2代で墓を守ってきた。

式には岸田さんのほか、土地を提供した稲継淳子さん、十倉善隆自治振興会長ら地元住民のほか、尊徳の故郷、小田原市で事績を顕彰し教えを伝えている報徳福運社の草山昭代表理事、大日本報徳社の鷲山恭彦社長、尊徳研究者の鴻谷正博さんらが参列。同町の常照寺の山口仙生住職がしめやかに仏事を営んだ。

草山代表理事は、信太郎は29歳で教師として赴任した小田原の学校の校長・吉田庫三(吉田松陰の甥)から、小田原の偉人・二宮尊徳の存在を伝えられ、研究するようになった経緯を紹介。「昭和7年に、1巻1200ページ、全36巻の『二宮尊徳全集』の最終巻を発行された。およそ5年で、ほぼ1人でまとめられた」と、驚異的な仕事ぶりを披露。行草書の和綴じで読みにくかった尊徳の1万巻余りの原本を、信太郎が編集し、読みやすい活版本にまとめたことで、教えが世に広く知られるようになったとし「報徳を学問にした」とたたえた。

信太郎の家は途絶えており、小田原の墓は草山さんらが守っている。

鷲山社長は、信太郎が昭和恐慌の経済的疲弊から立ち直らせた土方村(静岡県掛川市)出身。「報徳思想で村おこしをし、各戸の借金がなくなり、村も赤字から黒字になった。母からは『立て板に水のように話す人だった』と聞いている」とし、「お墓をずっと守っていただき、深くお礼申し上げたい」と頭を下げた。

十倉会長は、信太郎翁の教えを参考に、中野地区がある葛野地域は、旧氷上町内のどこよりも早く振興会をつくり、自治を行ってきた歴史や「法事のたびに『一円融合』の掛け軸を出してきて掛けていた。私たちも直接は知らない世代。改めて顕彰したい」と、自治振興会で、墓地とは別の場所に顕彰碑を建てる計画を報告した。

岸田さんは、「父が小田原まで佐々井先生の講習会に参加し、薫陶を受けた。私以上に母が大切にお墓のことを考えてくれ、父から引き継いだ任を無事に終えることができ、ほっとしている」と静かに語った。

【佐々井信太郎】小学校卒業後、兵庫県丹波市氷上町の高山寺に預けられ3年過ごす。父の鉱山を手伝うなどした。20歳の時、亡くなった父が多額の借金を残す。借金返済のために明治33年、26歳で東京へ出て私立小学校の校長に。その後、旧制小田原中学校に赴任し、尊徳に出会い、尊徳の教え「報徳」の研究を始める。44歳で教師を辞め報徳を広める道に入り、48歳で大日本報徳社の副社長。昭和5年ごろ、全国的に不景気で生活が苦しくなる。昭和8年、農村を救い国民生活を立て直すため、村の指導者を養成しようと、長期講習を開催するとともに東奔西走し、村で報徳生活による経済の立て直しと村づくりを指導し、「昭和の二宮尊徳」とも呼ばれた。戦争中は一時中断を余儀なくされるが、戦後指導を再開し、亡くなるまで続いた。昭和34年に第1号の氷上町名誉町民に。昭和40年、勲三等瑞宝章。

【葛野地域と信太郎】葛野は、大正中期から末期にかけ、大規模な灌漑設備投資と耕地整理を行った。事業費と償還金のため経済負担が大きくなった時期に昭和恐慌に見舞われ、田畑、山林や家を失い、夜逃げが相次いだ。昭和9年、村長が信太郎の45日間の指導者講習会に参加し葛野村の実情を報告。信太郎から指導・助言を受けるようになり、葛野から村人を多数、講習会に送る。昭和9年に葛野に帰り、生活の立て直しと借金返済を指導。戦前14回帰郷し、報徳生活による村づくりを説いた。「至誠・勤労・分度・推譲」の報徳仕法(報徳の実践方法)を伝え、「万象具徳」(あらゆるものに徳がある)、「積小為大」(せきしょういだい=小さな努力を積めば、いずれ大きなものになる)、「一円融合」(万物は一つの円の中で互いに働き合い一体となって初めて成果が現れる)などを説いた。信太郎は常会(いもこじ会)を開き、村人同士が話し合うことを強く勧めた。戦後、昭和26年に葛野で「村づくり報徳講習会」を再開、戦後復興期も指導にあたった。

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