養蚕から染織まで一貫
養蚕から反物制作までの一切を行う染織工房「こおり舎」を主宰。今年は春、秋で計4万頭以上の蚕を育て、繭から糸を紡いで染織に励んだ。並行して工房に通う生徒に染織を指導し、天然染料による染織の魅力を伝えている。
東京都出身。ニューヨークの日系旅行会社に勤務した後、日本から糸や布を輸入して販売する会社に転職。小物などを作ることが好きで、一時帰国した際に繭から糸を紡ぐ体験をしたことが、この世界に引かれるきっかけになった。
当時、会社のバックヤードに機があった。オーナーが“織る人”で、やってみると瞬く間に魅了された。ビザ切れのタイミングで機織りを本格的に学ぶことにし、愛媛県にあるシルク博物館で染織を2年間学んだ。
「実は、養蚕をするつもりはなかった」と笑う。ただ、反物などの制作には、糸を作る養蚕農家ともつながりが必要と考え、群馬県であった養蚕体験講座に参加。養蚕技術や繭の入手の難しさを感じる一方で、養蚕の教えを請う“先生”を探した。機織りや染織の道具を扱う店が多い京都に近い場所で探したところ、兵庫県唯一の養蚕農家・柿原啓志さん(春日町中山)の存在を知った。
2013年に初めて来丹。「丹波に来た時、気の流れが良いと感じた。自分にフィットする場所だと思った」と言い、すぐに柿原さんの下で修業の日々が始まった。2年後に独立を果たし、同町棚原の古民家で工房を開設。2年前、現在地に住まいと工房を移した。
約10年、養蚕の技術向上を優先してきたという。「次の10年は制作にかける時間も大事にしたい」。52歳。