里山の暮らしと「今」を学びの場に―。兵庫県丹波篠山市観光協会や商工会などが観光まちづくりのために組織した「Masse丹波篠山」(以下、マッセ)がこのほど、観光庁のモデル事業として、「丹波篠山里山アカデミー」を開催した。市外の高校生や大学生が対象で、市内の人々の暮らしを知り、目の前の課題に向き合う当事者の話を聞くことで、都市部では得られない学びにつなげてもらう企画。住民らと別れを惜しむほど濃密に交流した高校生らは、「課題があっても『大変だ』で終わらず、どうやって向き合うかを考えるなど、丹波篠山の方々の『当事者意識』に心を打ち抜かれた」「もっともっと学んでいきたい」などと、ここでしか経験できない深い学びを得ていた。
インターネットを使って授業やレポートの提出をすることが特徴の通信制高校「N/S高等学校」や、愛知県の名城大学付属高校に通う東京や横浜、埼玉、愛知などの高校生7人、神戸大学の学生4人が参加。3泊4日の日程で、古民家宿・集落丸山などに宿泊したほか、レストラン・SAKURAIでジビエ料理を、丹波篠山吉良農園やmocca(大山宮)で農業や林業などを学んだ。
丸山では地元住民と共に夕食を作ったり、集落を散策したりし、里山での暮らしを体験。吉良農園では獣害などと闘いながら農地を守る取り組みを知り、moccaでは実際に山に入って木を切り、器を作るなどした。
協力して丸太を山から運び出した林業体験では、木を切らないと若い芽が育たず、芽を食べる獣たちの餌がなくなり、里に下りてきてしまうことや、何十年も前の人が植えた木を今の人々が活用していることなど、世代を超えてつながる里山の仕事の一端を知った。
学生らは初めのうちこそぎこちなかったものの、住民との触れ合いや毎夜の振り返りを経て、最終日にはそれぞれが堂々と思いを発表。「丹波篠山の人の当事者意識を知り、自分も住んでいる地域の課題と向き合いたいと思った」「地方は高齢化が進み、限界集落になっているというイメージがあったけれど、みんなポジティブで明るく、協力して文化を守りたいという意思があることに感動した」「素敵な方々と出会って成長できた」などと、充実感に満ちた表情を浮かべた。
また、市内の魅力と課題についても考察。課題に向き合う人々や特産、文化、自然など数多くの魅力を上げる一方で、「村と山の境界がなくなってきている」「少子高齢化で技術を受け継ぐ人が少ない」「信頼関係、当事者意識などにより集落のバランスが取れている。一方で人のつながりが濃いからこそ、『こんな活動しなくていい』という人もいるだろうし、人間関係の難しさがあると思う」などと意見を述べていた。
「マッセ」を構成する一般社団法人「ウイズささやま」の田林信哉さんは参加者の感想を聞き、「皆さん、すごく深く考えていて感動した。木を切ってヒノキの香りを知ったり、シャツに木の繊維がたくさん付いたりと、予測しえないことが起こるのが里山で、この環境だからこそできたことばかり。ぜひ、家族や学校、地域で感じたことを伝えていって」と呼び掛けていた。
企画した同法人の生野雅一さんは、「作った木の皿、ジビエの味、農村を歩いた思い出、農村の課題。きっと忘れないと思う」と言い、「日本中が里山なので、丹波篠山の課題は日本全体の課題ということ。それを現場で学んでくれた手応えはある。今後も継続していきたい」と話していた。