10歳の「戦争」紙芝居に 戦後の変化も描く 87歳「平和の大切さ伝えたい」

2022.09.05
地域歴史

戦中戦後の自身の体験を描き、紙芝居にまとめた臼井邦昭さん。手にしているのは、防空演習の場面=2022年8月17日午後5時20分、兵庫県丹波市氷上町絹山で

兵庫県丹波市の郷土画家、臼井邦昭さん(87)が、戦中戦後に自身が体験した学校や地域の出来事を描いた紙芝居を制作した。国民学校時代の記憶を呼び起こし、ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相のわら人形を竹やりで刺して校門をくぐったこと、敗戦後の教科書の墨塗り、灯火管制のない明るい部屋など、時代の変化を鮮やかな色彩で描いている。

画用紙18枚に、水彩絵の具で描いた。自宅前の北小学校から平和学習の講師を依頼され、視角に訴えた方が伝わりやすいだろうと、紙芝居化を思いついた。

臼井さんは、10歳(幸世国民学校4年)で終戦を迎えた。紙芝居は同校入学から中学校卒業までの昭和16―25年ごろまでの場面を描いた。戦中の物がない、緊迫した暗い世の中と、戦後の平和な時代を描き、変貌ぶりを対比させている。

藁人形に突きを入れたり、出征兵士を見送る場面を描いた紙芝居

戦前の学校の様子では、運動場の「奉安殿」(御真影や教育勅語を収めた建物)に頭を下げる子ども、食糧増産のため一面サツマイモ畑になった校庭の畦に腹ばいになって目と耳と鼻を両手で押さえた、空襲時に身を守るための防空演習、留守兵士宅の農作業や子守りの手伝いなどを描いた。

昭和18、19年ごろの記憶という地元の絹山稲荷神社の出征兵士の見送りの場面は、兵士を見送る側が老人と女性、子どもで、兵隊に取られ、村にほとどんど若者がいなかったことを伝えている。

そして敗戦。夏休みが終わり、9月に登校すると、教師が泣き出し、新しい生活、新しい教科書に変わると説明を受け、象徴的な場面として、教科書の墨塗りを描いた。何ページの何行目と先生に言われるままに墨を塗ると、前後の文脈が通じない意味不明の文章になった。

教科書の墨塗りを表現した一枚

「何のために墨塗りをするのか」と教師に尋ねると、「世界の人と仲良くせんならん」と言われた。それまでの忠臣愛国が、突然変わった。それからしばらく後の残暑厳しい午後に突然、青い目をした外国人の兵士が来校。「指示通りの民主教育をしているかの視察だったと想像するが、校長がペコペコしていた」と、子どもながらに世の中の大きな変化を感じた思いを絵にした。

戦後の生活では、電球を隠す黒い布なしに、明かりがともる部屋で遊ぶ子どもを描き、灯火管制から解放された喜びを表現。ゴム飛び、三角ベースなど、大流行した遊び、引き揚げてきた元兵士が詰将棋を楽しむ姿も描いた。

臼井さんは、「戦時中は、子どもでも、うかつなことは言えない空気があった。劇的な時代の変化を紙芝居で表現することで、いかに束縛なく自由に発言ができる世の中、平和が大切かを伝えたかった。そんなに遠い昔でもない昭和に、非日常がごく当たり前に存在していたことを、今の子たちに分かってもらう一助になれば」と思いを語った。

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