地域潤す長谷大池 大戦で工事中止期間も

2023.01.11
たんばの世間遺産地域

のどかな時間が流れる長谷大池。築造は難工事だった=兵庫県丹波市春日町国領で

当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は兵庫県丹波市春日町国領地区の「長谷大池」です。

なみなみと水をたたえ、灌漑用水として地域を潤す「長谷大池」。民営の釣り堀や水上ゴルフ練習場としても活用されている。大池の築造は途中、先の大戦により工事中止を余儀なくされたものの、干ばつから地域を救うために15年以上の歳月をかけて行われた大工事だった。

池のほとりに立つ記念碑によると、たびたび起こった干ばつの中でも、とりわけ1939年(昭和14)の被害は深刻だったとある。恒久対策を望む村人らは、42年(昭和17)に県営で大池の工事に着手。しかし、時は太平洋戦争下にあり、公共事業は停止や最小限にとどめるなどした国の「決戦非常措置要綱」により事業計画を縮小。45年4月には工事が中止された。

池のほとりに立つ記念碑

46年12月に再着工したものの、敗戦直後の物価高騰や資材不足などのあおりを受け、都度、計画変更しながら、57年、完成の日を迎えた。石碑には、着工から竣工までの期間を「荊棘(いばら)苦闘の道」と表現しており、難航続きの大事業だったことがしのばれる。

大池を管理する「山東南部土地改良区」の細見滋樹理事長(77)は幼い頃、完成時に催された式典に参加したことを覚えている。「紅白まんじゅうをもらえるから行った」と笑い、「大池は百姓の涙の結晶で、国領のシンボル」と話す。国領自治会の井上祥太郎会長(70)は、「他地域も潤しており、農家にとって命の水」と話している。

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