兵庫県丹波篠山市は、農薬や化学肥料を使わない有機農業を地域ぐるみで推進する「オーガニックビレッジ宣言」を行った。有機農業の実践のみならず、自然や生き物を守るための農業や、特産の黒大豆の有機栽培技術の確立を目指すほか、国などの補助を活用し、省力化などを目的にした最新のスマート農業の実証実験も行う。現状、市内各地で有機に取り組む農家があるものの、それぞれが経験に基づいた独自の技術を持っているため、情報を集め、興味がある人が誰でも取り組める仕組みをつくり、裾野の拡大を図る。同宣言は県内では近隣の丹波市に次いで2例目。
国は2025年までに全国100市町村での宣言を目指しており、有機農業の普及に向けて財政支援を行っている。
「水と創る農都ものがり」と題し、4月27日付で行った宣言では、同市は3つの河川の源流を持ち、黒大豆をはじめとした伝統的な農産物の産地で、大規模、小規模、地域、移住者など多様な農家が農業を実践する中、有機農業の情報交換や連携を進め、多くの農家が有機を「実践できるかたち」を確立するなどとした。
具体的には有機農業に取り組むグループ・篠山自然派や認定農業者連絡協議会、JA、市で「丹波篠山ワクワク農都づくり協議会」(中島武史会長)を結成し、実施計画(計画期間23―27年度)を策定。▽水稲▽黒大豆▽普及啓発・情報発信―の3つのプロジェクトチームをつくり、情報通信技術(ICT)を使ったスマート農業を駆使した除草や施肥の実験などを行うほか、有機農法の技術や考え方の普及、水稲と黒大豆の輪作体系の確立、技術指導や就農支援に取り組む。
数値目標は、27年度までに最低でも協議会メンバーの水稲の有機農業面積を現状の13・3ヘクタールから21・7ヘクタールに増やし、有機農業に取り組むメンバーも20人から28人に増やす。
また、生態系の循環や水、自然環境に配慮する心など、大切にしたい考え方を図案化したロゴマークも作成。取り組みを伝えるウェブサイトも制作した。
国からの支援は準備期間の22年度から始まっており、24年度まで年間上限1000万円。実証実験や有機栽培米の学校給食導入、栽培技術のマニュアル化などに充てる。
市内では、1974年に「丹南町有機農業実践会」、2017年に「篠山自然派」が設立されたほか、2021年からは、学校給食で有機野菜の使用を進めている。
協議会メンバーは、「安全安心で、生き物にも配慮することが、自分の満足感につながる」「農薬は対抗してくる害虫とのイタチごっこで、どんどん強い薬を使うことになる。有機では生物の持つ対応力を学び、環境を循環させていく。人として学ぶことも多い」などと魅力を語る。
中島会長は、「全国で有機農業は1%にも満たない分野だが、作物には付加価値があり、収益増にもなる。一方で、取り組んでいる人の技術はばらばら。情報を収集することで、早いスピードで技術を確立し、普及することができる」と期待する。
JAの澤本辰夫組合長は、「いかに省力化し、収量を維持できるかなど、栽培体系が確立できるかがポイント。有機は産地としてのブランド向上にもつながるので、拡大に努めていく」とした。
2020年の農林業センサスによると、市内の農家数は2020年で3224戸、面積にして3182ヘクタールで、うち有機農業に取り組んでいるのは122戸、94・3ヘクタール。有機農業者の割合は3・8%と、国の平均(0・6%)を上回っている。