当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は丹波篠山市今田町下小野原地区の神事「堂の講」で祭られる地蔵菩薩の木像です。
兵庫県丹波篠山市今田町下小野原の公民館で毎年1月9日に営まれている福寿増長、五穀豊穣などを祈願する神事「堂の講」で祭られる地蔵菩薩の木像。作者、制作年、いわれなど、何もかもが不明という。同神事は、ヌルデ(ウルシ科)の木で作った「ゴズエ(牛玉杖)」と呼ぶ杭で、机上を激しくたたいて願いの強さを伝えるという風変わりな所作で知られる。年に1度だけ村人の前に姿を現し、けたたましい音と共に捧げる村人たちの強い思いを一心に受け止めている。
高さ約93センチ、幅約21センチ、厚み約9センチ。丸太を半分に割って造られているよう。前面は平面で、ノミのようなもので穏やかな表情の顔をはじめ、衣や手にした錫杖、宝珠などが彫りこまれており、素朴な造り。背面は丸みを帯びている。
ハスの模様が刻まれた台座も付属し、横約40センチ、奥行き約15センチ、高さ約10センチ。
同祭事を取り仕切る和田寺の武内泰照住職(54)によると、神事は江戸時代初期にはすでに行われていたとされ、もともとは豊作祈願のほか、虫よけ、雨ごい、牛馬の健康などの祈願のために営まれていたという。
武内住職は、「神事の歴史からして、このお地蔵様は江戸初期以前の作か。いずれにせよ何百年にもわたって村の方々が信仰し続けているという、その思いが大切なのです」と話している。