兵庫県丹波篠山市森づくり課職員の京極暁さん(47)が、農林水産省の「農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー」に登録された。獣害現場の第一線で、住民の相談を受けながら共生も見据えつつ被害対策を講じるエキスパートだが、もとはレコード店の店員やウェブデザイナーという異色の経歴の持ち主。「獣害に遭われた方々は、悲しかったり、怒ったり、怖かったりとマイナスからのスタート。獣害を解決し、それをプラスやゼロに持っていき、喜んでもらえたときはとてもやりがいがある」とほほ笑む。
被害の現場を見に行き、足跡などでどの動物かを判断。動物がやって来た方向を見定め、たどっていくと獣害柵に穴がある。柵を補修すると被害がぴたりとやむ。「獣害の基本は相手を知ること。正しく相手を見極めることさえできれば対策はできる」。アドバイザーの目が光る。
同県宝塚市出身の京極さん。10年前に母の実家で、祖母が暮らす丹波篠山に移住。きっかけの一つは自宅が半壊した阪神淡路大震災で、「何かあったときのちゃんとした対応力を身に付けたかった。そのとき、自然豊かな丹波篠山で生活することも良いかな、と。もともとアウトドア派で、自然も好きだったので、『おばあちゃん家に行くか』というくらいの気持ちだった」。
畑を開墾したり、山の木を切ったりして過ごす中、「そろそろ働かないと」と思ったときに見つけたのが、市の道路パトロール員の募集。面接の際に畑を耕していることや自身も獣害で被害に遭ったことを何げなく話すと、紹介されたのが現在の部署だった。
被害に遭った人の気持ちは分かるものの、対策の知識はゼロ。ただ、職場で隣の席になったのが、元県森林動物研究センター職員で、現在はNPO法人・里地里山問題研究所の代表理事を務める獣害の専門家、鈴木克哉さんだった。鈴木さんらと共に現場に出向いているうちに経験が深まった。
気が付けば獣害対策に身を投じて早9年。現場で人々と対面するからこそ分かったことがある。 「獣害は、作物を育てた人の心にも被害がある。そんなとき、『自分は医者だ』という観点で見る。病の原因を究明し、きちんと処置をすれば心も治る。そう思う」
ロックからメタル、果ては民族音楽と、とにかく音楽好きで、20歳代半ばには大手レコード店の店員になった。横行していた万引き犯を次々と〝検挙〟するなど実績を上げ、若くして店長補佐に就く。「万引きを捕まえるこつは、行動をよく観察すること。獣害対策にもつながっているかも」と苦笑する。
やりがいのある仕事だったが、良いと思うアーティストよりもアイドルの楽曲がランキングの半分以上を占める状況になり、業界に危機感を抱き退職。店のマネジメントをしていた実績を買われてウェブ会社に就職したが、管理だけではなく、自身もパソコンができないといけないと感じてゼロから知識と技術を習得し、ホームページなどを制作するウェブデザイナーとして仕事の幅を広げた。その後は技術を生かして友人らの立ち上げたアパレル会社も支えた。
アドバイザー登録には、「今後もより知識を深めて精進し、良い事例を全国に発信していきたい」と意気込んでいる。
現在、困っていることは、仕事中に音楽を聞けないこと。バイクも趣味で、地域の人から譲り受けたホンダの小型バイク「モンキー」を修理中。
農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー 獣害防止に関して、専門的な知識と経験を持ち、適切な助言などを行うことができる人材。被害防止体制の整備や防護柵の整備、被害防止のための捕獲、獣害防止の担い手の育成などを助言する、地域の獣害対策の専門家。同市職員の登録は初めて。今年6月末時点で、全国の法人や大学、地方公共団体、企業などで265人が登録されており、県内の自治体の登録者は3人。