「問題グマ」予防を 対策は「柿もぐこと」 個体数管理の県では出没最少ペース

2023.11.23
地域注目

箱わなそばに現れたクマ。近くに柿の木がある。近くで7月26日、箱わなを壊してクマが逃げた。同一個体かは不明=203年10月24日午後7時11分、兵庫県丹波市青垣町東芦田で(提供)

北海道、本州でクマの出没が相次ぎ、襲われて命を落とす人も出ており、クマに全国的な注目が集まっている。報道で敏感になった市民から「この足跡は、クマじゃないか」との通報が兵庫県丹波市にも寄せられ、担当者が現地確認に追われている。一方、同市内の出没数は、令和になった過去5年で最少ペース。世間の喧騒と市の実状はかけ離れている。クマの生態に詳しい専門家によると、県が10年以上前から取り組んできた個体数管理の効果で兵庫県では今のところ、問題個体は減っている。出没数も少ない丹波市民が今すべきことは、なり年で鈴なりになったまま放置されている「不要柿をもぐこと」と指摘する。誘引され、柿に固執するクマを生まないため、将来、里で餌をあさる「問題グマ」となるのを予防するためだ。その柿が、問題グマをつくる―。

市によると、今年度(11月15日時点)の出没数は30件=グラフ1。毎年1―3月の出没はほぼゼロ。今年度は実質、残り1カ月半だ。昨年度は62件だった。10月は3件だったが、11月は6件と増えている。山の食べ物を食べ尽くし、これから柿を求めて里に降りて来ることが懸念される。

 同市青垣町にある兵庫県森林動物研究センターは今秋、ドングリの実りが悪く、人里周辺でクマの出没が増える恐れがあると警戒を呼びかけていたが、なぜ出没が少ないのか。

クマの生態に詳しい同センター研究部長で、兵庫県立大教授の横山真弓さんは、「10年ほど前に議論を重ね、他県より早く個体数管理に取り組んだのが効いている」と説明する。推定生息数1群800頭を目安に、増えた分は捕獲、減れば捕獲上限数を下げる。県内生息数は600―800頭とみられる。府県境を越えて動いており、県は県内の個体を東西2群に分け、管理している。

17年度に生息数が「絶滅の危機が解消されるまでに増加した」と判断し、保護政策から個体管理政策へ転換。個体数を一定に保っていることで、ドングリが凶作でもヤマブドウやアケビなど山にあるさまざまな物で十分餌を得られているとみる。

 また、人里で餌をあさる「問題グマ」に加え、「ゾーニング管理」という考え方で、人里から200メートル付近にすむ「問題グマ予備軍」を捕獲し、人里に近づくクマを18―20年度に政策的に減らした効果が出ているとする。

環境省のクマ駆除頭数調べ=グラフ2=によると、県は19年度の120頭がピーク。今年度は9月末で21頭。岩手県は21年度の453頭がピーク。秋田県は、今月13日で捕獲数が1730頭に達した。同県は、県内生息数を4400頭(中央値、20年4月)と推定している。

晩秋に山の食べ物が底を尽くと、里の食べ物が狙われる。横山さんは、新たな「問題グマ」「問題グマ予備軍」を生まないために、放置柿をもぐことの大切さを説く。「県ツキノワグマ管理計画」によると、2018年度から5年間の県内出没情報3035件のうち、柿が誘引原因の84%を占めた。

鈴なりに実った柿。もがれず木に残ったまま

それまで見向きもしなかった渋柿も、初冬には渋が抜けて甘くなり、狙われる。クマは一日中、餌を求めて歩いており、山頂と里を楽々と行き来する脚力がある。里に現れ、柿の位置を覚えて帰る。山の実りがなくなると、里にたくさんあり、楽して栄養が取れる柿に執着し、柿の近くに居着く「問題グマ」になる。横山さんは「人が無意識のうちに、餌付けしてしまっている」と言う。

「問題グマ」を適切に駆除しても放置柿を除去しない限り、別のクマが現れ、次の「問題グマ」が生まれる。負のループが続き、被害はなくならない。里でクマと出合うと、偶発的な事故が起こり得る。

災いの種を取り除くため、横山さんは、クマへの注目度が高まっている今こそ、「里に近づけない努力=柿をもぐ、もしくは木を切る」に、真剣に取り組んでもらいたいと願っている。

「里まで来たのに食べる物がなければ、あきらめて山へ帰る。『里に来るだけ無駄』と学習させる」。クマはより効率的に柿を食べられる場所を探している。柿の密度が低ければ、後回しになる。自分の所の柿をもぐだけで「クマに好かれない、クマに魅力のない集落」に近づく。

 

16―17日のものとみられる真新しいふん

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