CO2吸収量を売ってお金に 国の「J-クレジット」制度 林業会社の間伐事業認定

2024.01.29
地域注目自然

「森のわ」が施業し、J―クレジット認証を受けた「首切地蔵尊」そばの山林。東屋は、施業前は木に埋もれて見えなかった=兵庫県丹波市山南町谷川で

省エネルギー機器の導入や森林の間伐などによる二酸化炭素などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度「J―クレジット」に、林業「森のわ」社(兵庫県丹波市柏原町田路)が同市山南町谷川で実施した間伐事業が認定された。「クレジット」は販売でき、同社の手数料を差し引いた額を、山林所有者の谷川区に還元する。材の売却益だけでなく、目に見えない二酸化炭素吸収量という新たに創出された価値の売却益が得られ、山林所有者にメリットがある制度だ。

「加古川上流における森林管理によるCO2吸収プロジェクト―丹波市山南町―」で認証された。谷川区が所有する山林と、一部私有林の148・87㌶で登録。間伐面積は50・98㌶。ほぼスギ、ヒノキで一部天然林が交じっている。2019―22年で46・48㌶を間伐済み。23、24年で残りを間伐する。

間伐面積や樹齢により、地上、地下の二酸化炭素吸収量を計算する式があり、同プロジェクトの吸収量は、23―30年度で1222・9㌧。これが、「トン当たりいくら」で売却できる「クレジット」になる。購入者は、脱炭素社会への貢献が求められている企業。クレジットを購入することで、自社の事業活動で排出する二酸化炭素量と相殺できるなどの利点がある。

森林由来のクレジットは、太陽光発電などと比べ単価が高く、トン当たり5000―1万円程度で販売されている。「森のわ」の事業は、現時点ではプロジェクトの認証にとどまり、値段を付けて売買市場に出す段階で「クレジット」になる。クレジット化は、25年度を見込む。価格は未定だが、仮に低価格帯の5000円でも、全て売却できれば600万円余りになる。ここから事務手数料、営業活動にかかった経費などを差し引き、所有者に還元する。

クレジットの認証を受けるには、森林経営計画を策定した上で施業が必要。施業後も、間伐した場所の二酸化炭素吸収量を毎年モニタリングし、書類を作成しなければならない上、クレジットの認証を受けるための認証機関への申請書類など、事務手続きは多い。

同クレジットを担当する同社の板谷正人専務は「書類作りが大変。間伐しておしまいではなく、管理し続けなければならない。認証を受けることで山林所有者に還元ができる。1例、実績ができたので、次は自社林で認証取得を考えたい」と話している。

同社に施業を依頼した、谷川区山林共有林会の篠倉和弘会長(71)は、「制度を知らず、板谷さんから話を聞いた時に、そんな良い話が本当にあるのかと思った」と言い、勉強会を開き理解を深めていったという。「還元額がいくらか分からないが、それを森林整備に充てられる」と喜んでいる。

◆毎月間伐作業に従事 地元の「情熱」呼び水に

自ら間伐作業をする谷川区山林共有林会の役員と間伐隊

J―クレジット認証を受けた山南町谷川区の山林。区有林は700㌶あり、地元の谷川区山林共有林会が管理している。同会の役員(16人)が、木の世話、6本ある林道の管理、民家近くの危険木伐採を担う長い歴史があり、近年、役員による間伐作業が本格化。役員の高齢化に伴い募った、有志の「間伐隊」(12人)と共に、20―70代が毎月、間伐作業に励んでいる。

山への関心が高い地域性から、所有者の理解が得られやすいだろうと、「森のわ」がクレジット導入を提案、地域の情熱が呼び水になった。急峻でない、手に合う所は同会が、急峻な所はプロが施業する。

同会の役員は、11ある谷川の各自治会から選出された山林委員。杉浦都志雄さん(75)=6区=、藤本利一さん(69)=7区=、藤本富夫さん(69)=同=、中村光良さん(64)=5区=の山林専門員4人を中心に計画をつくり、事業を進めている。チェーンソーを持ったことがない未経験者も選出され、講習を受け、戦力になってもらっている。小山裕さん(67)=11区山林委員=は、「昔、たきものを作ったくらい。しんどいが、和気あいあい。1人じゃなく、助け合って作業するのが良い」と言う。

間伐隊は、谷川以外からの参加もあり、女性も在籍。「木の駅プロジェクト」に参加し、間伐材を、バイオマス発電の燃料にする地元の兵庫パルプ工業に運ぶ。県の森林・山村多面的機能発揮対策交付金も受けて収入を増やし、賃金を支払っている。

メンバーは作業をしながら、先人が植林に費やした途方もない労力に思いをはせ「今頃、大金になってるはずやったんやけど」と苦笑いしつつ、引き継いだ財産を負のものとしてしまわないように努力している。

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