「トウキ(当帰)葉は血行促進に効果あり」―。兵庫医科大学薬学部の前田初男教授らが、トウキ葉の効果で末梢血管の血の巡りが良くなるという研究結果をまとめ、同大紀要(学術論文集)で発表した。薬草産地として知られる兵庫県丹波市山南町と同大で行った実験結果を分析したもので、温茶を飲んだり、手浴をしたりすると、末梢血管の血行が少なくとも30分間良くなることが明らかになった。また、元々血の巡りが悪い人は、効果がより高いという結果が得られた。前田教授は「予想以上に効果があり、冷え性の人に選択的に効くという“都合の良さ”に少し驚いた」と話している。
論文をまとめたのは、前田教授の生体分析化学研究室のチーム。データの収集には、指先に挟んで使う医療用パルスオキシメーターを使用し、「灌流指標」(PI値)と呼ばれる末梢血管の血流量(血の巡り)を測った。
トウキ茶の飲用実験は、濃さと温度の条件をそろえた日本茶(緑茶)での値と比較した。温かいトウキ葉茶を飲んだ人は、飲用10分後、20分後、30分後のいずれも、温かい日本茶を飲んだ人よりも指先の血流量が多くなった。
トウキ湯の手浴実験でも、何も入れない湯と比べて指先の血流量が多くなる、茶と同様の結果が得られた。また、トウキ湯では、手浴後20分後に血流量が最も多くなり、「ゆっくりと効果が出る」ことが示された。
また、被験者のうち、飲用・手浴前の血の巡りが悪い人と良い人に分けてデータを分析すると、血の巡りが元々悪い人は血流量の増加率が大きく、元々良い人は増加率が小さかった=図1、2参照。
この結果について前田教授は「トウキの作用で血管が拡張されて血流が良くなるが、元々血管が広がっている人には影響が小さいのではないか。健康な状態の人にとっての安全性も担保できた」としている。
茶の飲用実験は、2021年11月と12月に計2日間、山南町の和田地域づくりセンターで行った。地元を中心とした20―80歳代の男女、計59人が協力した。手浴実験は、昨年1―2月に同大で実施した。20歳代の男女学生25人が参加した。
同大は、薬草をテーマにした地域連携プロジェクト「薬活オウルズ」に取り組み、2017年度から山南町で活動。トウキ生産者らと共に、栽培や新商品の開発などを行ってきた。メディアに取り上げられたことで注目も高まり、有馬温泉でのトウキ葉紹介、デパートでの商品販売などを行う中でトウキのニーズに手応えを感じているという。
同チームの石崎真紀子研究員は、「地元の人にもトウキの効果を広く知ってもらい、産地として盛り上がっていけば」と期待を話す。
研究結果を聞いた山南町薬草組合トウキ生産部会の後藤康介部会長(67)は「効能はあるだろうと言われていたが、実際に血の巡りが良くなることが証明された。自信を持って栽培していきたい」と話していた。
実験に使用したトウキ茶は「特選とうき葉茶」(クラモト社製)、トウキ葉湯は「ポカポカとうき葉風呂」(山南町薬草組合トウキ生産部会製)。
論文は「灌流指標に対する大和当帰葉茶・当帰葉手浴の急性効果の評価」として、インターネット上に公開されている。